大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成元年(行コ)78号 判決

控訴人(原告) ハキイム・アブダラ・ルカニカ 外一名

被控訴人(被告) 法務大臣

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。被控訴人が昭和五九年一二月二七日付けで控訴人らに対してした難民の認定をしない旨の各処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、各控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示及び当審記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決五枚目裏一〇行目の「アユブ兄弟」を「ハキイム兄弟」と、原判決六枚目表四行目の「ハキイム兄弟」を「アユブ兄弟」と、原判決七枚目表七行目の「法六〇条の二」を「法六一条の二」と、それぞれ改める。

二  控訴人らの主張として、次のとおり付加する。

控訴人らは、いずれも難民条約一条A(2)及び議定書一条の「人種若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するもの」に該当する、と主張するものであるが、右条項適用に際しては、難民条約及び日本国憲法のよって立つ人道主義、国際主義の精神が十分に尊重されなければならない。特に、難民認定申請においては、その申請者が真に難民に該当するものである場合、立場上、難民該当事由を立証する手段には制約がある。すなわち、自己が政治的理由などで迫害を受けるおそれがあることを示す証拠を所持することは極めて危険なのであって、このような事情は難民該当事由の存否を判断するに際し、十分に斟酌されるべきである。迫害を受ける可能性がある程度存在し、それを否定する明白な事実が存在しない場合には、「疑わしきは救済する」ことが、人道主義、国際主義の精神に合致するものである。

理由

当裁判所も、原審と同じく、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきものであると判断するが、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

原判決掲記の各証拠及び成立に争いのない甲第四一号証によれば、ウガンダにおいては、昭和六一年一月に現ムセベニ政権が誕生した後も、政情不安が続いており、国民の政治的自由が保障されず、軍などによる人権の侵害が頻発していることが窺われないではないが、他方、多党制をとり、民主党員の政権への参画の認められている現ムセベニ政権の下において、控訴人らが、その父親が民主党の支持者であったことのゆえをもって迫害を受ける客観的かつ具体的なおそれが存在しているものとはいまだ認め難い。したがって、控訴人らの主張する立証上の困難を考慮に入れたとしても、少なくとも現時点においては、控訴人らは「難民」には該当するものではないと判断せざるを得ない。

よって、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉井直昭 小林克已 河邉義典)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例